「自給自足をしたい」、「農ある暮らしをしたい」、「田舎暮らしをしたい」など農業や農村に魅力を感じている人が、若い世代を中心に増えていると感じます。
しかし、「農業をしたいから、農地を借りたい」と、市町村の農業委員会や市役所などを訪ねても「農家ではないため、それはできません」と、断られることが多いと思います。
基本的には、行政の対応に不備はないと考えます。
平成21年12月15日に改正された農地法では、1,000㎡以下の小規模の農地でも、その下限面積を別段として定め、農家以外の人も、農地を借りることができるようにしています。
この場合、農地の貸し借りだけではなく、所有権の移転も可能になり、その責任は、農業委員会が負うことになります。
従って、行政側では、そのことをリスクとして捉えてしまうようです。
しかし、南足柄市の農業委員会には、誰でもが農業をすることができ、農家になることもできる「新たな農業参入システム」を創り、農業を担う裾野を広げようとしています。
農地の貸し借りについては、権利の移動が伴わない農業経営基盤強化促進法によりその利用権の設定を行うこととしています。
農家になりたい人は、農家資格を得ることのできる耕作面積が10アール(1,000㎡)以上の「南足柄市新規就農基準」(平成20年10月1日施行)自給自足程度の農業をしたい人は、耕作面積が10アール未満300㎡までの「市民農業者制度」(平成21年9月1日施行)を選択して、申請をします。
これらの新規就農希望者は、農業委員会が定めた就農計画書(農家になるための計画)や営農計画書(農業をするための計画)等を作成し、毎月の月末に開催される農業委員会の総会の席で、新規就農者や市民農業者になるためのプレゼンテーションに臨みます。
そして、地域の農家やJA、議会などから選出された14名の農業委員さんにより、就農計画書や営農計画書などの資料に基づいた質疑応答が履行され、新規就農者や市民農業者の合否がなされます。
その後、農地の借り受けの申請となります。貸し借りの農地バンク情報については、農業委員会事務局にもその用意があります。また、農業委員さんからの情報提供もあり、その中から、希望する農地を探すことは可能です。
現在、南足柄市の「新たな農業参入システム」により、新規就農者14名、市民農業者4名が誕生しています。しかし、市の農業の担い手や理解者になる人数には、ほど遠い数です。そこで、この仕組みを立案、施行した私が先頭になり、地域や行政と連携が図られた市民農業者等の育成を目指すため、南足柄市塚原のTOMIOファーム及びユートピア農園を拠点にした「市民農業者塾」を次のとおり、開設しました。
目 的
○担い手がいない耕作放棄地(遊休農地)の解消に取り組み、新しいライフスタイル「農ある暮らし」を目指す市民参加型の農業者塾の開設により、共に支えあう農村コミュニティを創造すること。
心 得
○市民農業者等が借り受ける農地は、原則、耕作放棄地(遊休農地)とし、自らが額に汗してその解消に取り組む。
○耕作放棄地の解消を地域への社会的貢献と義務づけ、その「見える化」を図ることにより、地元農家などの信用・信頼を確実なものにする。
年 齢
○20歳から65歳程度とし、男女は問わない。
サポート体制
○次の4名のプロフェッショナルな農家が、農地の紹介や農業指導、地域への理解など責任を持って支援する。
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元JA理事 生沼 仁 |
農業委員会会長 石川 栄 |
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古屋治平農園代表 古屋 治平 |
TOMIOファーム代表 古屋 富雄 |
開設日
○平成26年4月1日
代表者
○TOMIOファーム代表 古屋 富雄
この塾の開設と塾生の募集について、2社の新聞に掲載され、次の4名の塾生を受け入れることになりました。
用意した約3,000㎡の耕作放棄地を4等分し、平成26年5月早速、作業が開始されました。
20年間も耕作が放棄された畑は、雑木や蔦、雑草が生い茂る山林・原野に変貌していました。
塾生の心得である※農地は、原則、耕作放棄地(遊休農地)※地域への社会的貢献の「見える化」の実践を掲げた取り組みがスタートした瞬間でもあります。
市民農業者塾の4人の塾生が作業を開始 H26年5月17日
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川崎市から恩田さん |
大磯町から石田さん |
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小田原市から福原さん |
南足柄市から前田さん |
そして、8カ月が経過しました。
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解消前 |
解消後 |
綺麗になった畑には、ニンニクやそら豆、サヤエンドウなどが作付けされ、春の収穫を待ちわびています。
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ニンニク |
そら豆、サヤエンドウ |
また、この塾では「畑の管理は山菜まかせ」という自然栽培に近い農法の実践も取り入れており、山菜の種類や野原での確保に役立てようと、畑の一角に山菜のモデルほ場を設置しています。
モデルほ場には、ミョウガやウド、ワラビ、フキ、タラなど多くの山菜が植栽されています。
平成27年2月、島根県農業会議の依頼により「遊休農地解消実践研修会」に参加することになり、その基調講演と事例発表を塾生の前田さんと一緒にすることになりました。会場は出雲市に近い石見銀山で有名な大田市の「あすてらすホール」で開催されました。
私の演題は「遊休農地を活用した担い手の発掘・育成の取り組み」そして、その事例発表を前田さんが行いました。
塾の取り組みが、島根県の参考になればと思うと同時に島根県の農業振興に役立つ、儲かる農作物の紹介を織り込んだ講演に、多くの方が耳を傾けてくれました。
また、前田さんについては、初めての事例発表で大変緊張したとのことでしたが、塾での経験を自然体で発表できたと感じました。
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基調講演 |
事例発表 |
近年、大都市への一極集中により、利便性の高い都市での生活や経済優先の市場原理の社会に疑問を持ち始めている人が、頻繁に私のもとに訪れてきます。「自給自足をしたい」、「農ある暮らしをしたい」、「田舎暮らしをしたい」などを希望する市民です。
今、農業は、農家や農業関係者だけで担う時代は終わりかけています。誰でもが農地を借りることが出来る、農業を支える仕組みを国策として行う時代が来ていることを改めて実感した「来たれ!市民農業者たち」です。
※参考
耕作放棄地とは? 過去1年以上作物を作付していない農地(農林業センサス)での用語
遊休農地とは? 1年以上耕作されておらず、今後も耕作される見込みのない農地(農地法や経営基盤強化促進法など)の用語であり、耕作放棄地と遊休農地は、同じ意味と解釈してよい。
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