「定年帰農者」という言葉は、農業関係者の間ではよく使われています。
その意味は、農村出身者が定年後に故郷に戻り農業に従事する。または、出身地を問わず定年退職者が農村に移住し、農業に従事するということです。
南足柄市では、2008年10月1日に施行した「南足柄市新規就農基準」により自立できる農家の育成を行っています。さらに、2009年9月1日には、定年後農業がしたい人などを対象にした「市民農業者制度」を施行させ、農家以外の多様な担い手の確保に努めています。
農家は、専業農家と兼業農家に大別され、10年農林業センサスの専兼業別農家数*(販売農家)によると、販売農家総数1,632千戸のうち専業農家452千戸、第1種兼業農家225千戸、第2種兼業農家955千戸が報告されています。それらの構成比率は専業農家27.7%、第1種兼業農家13.8%、第2種兼業農家58.5%です。専業農家率は30%に満たない状況であり、さらに*自給的農家897千戸を加えると構成比率は20%を切ってしまいます。
言い換えると80%以上が農業以外の何らかの職業を持った兼業農家といえます。
そこで、自給的農家を含めた兼業農家の継続・育成を図りつつ、安定した担い手の確保を目指す兼業農家の新たなライフスタイルを提案します。
農業の継承を定年後(55歳から60歳)と家族間で予め決めておき、親から子へ、子から孫へと農業を継承させるビジョンで、その名称を「定年チェンジ・ファーマー」とします。
定年までは会社などに勤務し、定年後の安定した経済基盤を厚生年金や共済年金、退職金などで準備することができるサラリーマン生活を送ります。そして、農業の継承を定年後と予め決めた人生設計を意識することにより、定年後に向けた農業技術の習得や地域のコミュニティーとの関わり方などを積極的に学ぶ姿勢が醸成されると考えます。
例えば、休日には、トラクターに乗り、草刈り機を使うという農業に従事する生活を送る中で、地域の風習や祭りなどの行事にも自然と関心を持つようになるでしょう。
このように定年後を見据えた生活習慣がスムーズな農業継承に繋がると考えます。
また、60歳では、農業に従事するには、年齢的に遅いと考える人も少なくありません。このような人は、会社を退職し、国民年金の*第1号被保険者になれば、農業者年金に加入することができます。
農業者年金は、厚生年金や共済年金などのような*賦課方式ではなく、*積立方式のため、景気の変動などに影響されるリスクはありますが、自ら積み立てた保険料は、将来の自分の年金給付に使われ、加入者や受給者の数に左右されない安定した財源が確保されたシステムと考えます。
そして、その保険料は、月額2,000円~67,000円を上限として、契約することができ、その年額の保険料の全額が、所得税や住民税の社会保険料控除になります。
仮に、55歳で会社を退職しても、この年金に加入することにより、国民年金に上乗せした年金の受給により、老後の生活費の担保としても効果な手段と考えます。
また、奥様が農業従事者の場合は、一緒に加入することができ、「老後の妻へのプレゼント」にもなる年金と考えます。
もちろん、兼農サラリーマンが、南足柄市新規就農基準(1,000㎡以上の農地の借り受け)により農家として認められ、かつ、その農業従事の実績が農業委員会などに認められれば、多いにこの年金が活用できるものと考えます。
「定年チェンジ・ファーマー」は、「定年帰農者」のように単に定年後、農業をするという漠然的な就農形態とは違い、親から子へ、子から孫へと継承される就農形態であり、自給的農家を含めた兼業農家の継続・育成に寄与できるものと考えます。シルバー世代が日本の農業の一翼を担う「定年チェンジ・ファーマー」こそ、発想の転換であり、大きな可能性を秘めた農業施策の試行ともいえます。
「定年チェンジ・ファーマー」が農業関係者に広まることを期待します。
頑張る中高年
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