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138号掲載「農業マイスター」と「南足柄市農業参入システム」の法制化

「農業マイスター」と「南足柄市農業参入システム」の法制化
(→pdf でもご覧頂けます)

現在、農家には、その経営支援策の一つとして直接支払いによる「戸別所得補償制度」が実施されています。
しかし、この制度は、全農家を対象にしているため、税金のバラマキだと揶揄する見方もあります。
「戸別所得補償制度」とは、農家を保護するために、政府が農家に対してその所得を補償する。すなわち、お金を農家に直接支払う制度のことです。農家には、定額交付分として、10a当たり、年間15,000円が支給されます。それ以外にも、農産物(主に米)の販売価格が標準的な価格から下がった場合は、その差額分が支給されます。
農業は、人が生きていくために必要な食料を生産する生命産業であることは言うまでもありません。そして、農業はその国の基であると考えます
私は、平成19年10月にヨーロッパにおける都市型農業の振興をテーマにドイツ、イタリアの視察を行いました。この視察は、財団法人神奈川県市町村振興協会の市町村人材育成事業の一環として実施されているものです。メンバーはこのテーマに共感する県内市町村職員8名によりチームを構成しました。

農業視察

 

視察先の一つでありますドイツのバイエルン州エルディング農業局の取り組み事例を紹介します。
エルディング農業局からの聞き取りで、ドイツには、農業分野にもマイスター制度(農業士の資格制度)が導入されていることが分かりました。そして、このマイスターを取得した農家には、農業経営が確実にできるだけの補助金が支払われることも分かりました。
マイスターとは、日本では、「親方」、「名人」と訳されています。
マイスターの起源は、今から約800年にさかのぼると言われています。その頃のヨーロッパ、特にドイツでは、手工業の間で、徒弟、職人、そしてマイスターという三つの身分ができあがっていました。それは、徒弟が修行を積んで試験に合格すると職人、さらに修行を積んで試験に合格するとマイスターになれるという具合です。手工業では、事業所などを経営するためには、必ずこのマイスターの資格を有していなければならない。
また、後進の職業教育をすることができるのも、このマイスターの有資格者のみであることなど、その業界のリーダー的な存在でもあります。
この手工業マイスターのほかに農業マイスターや家政マイスター、海運マイスターなどがあるとのことです。

バイエルン州は47郡(市を含む)で構成され、このエルディング農業局では、ミュンヘン市を含む周辺4郡を管轄しています。
そして、農業促進部門と森林部門の2部門を75人の職員が担当しています。農業促進部門では、EUの農業政策への対応や農家指導およびその教育の3つの業務を行っています。農家指導の業務内容は、農家が農業用施設等を整備する際のアドバイスを主な業務としています。
また、教育の業務内容は、農業士の資格を取得するための教育を行っています。この農業士の資格を取得するためには、農業局に併設されている農業学校で2年間の実習教育を受け、なおかつ、その資格認定が認められた者としています。農家が州から農業関係の補助金制度を利用するためには、この農業士の資格が必要であり、条件になっています。

農業視察
バイエルン州エルディング農業局

ドイツでは、*グリーンベルトに象徴されるように一本でも木(みどり)を植えた個人や企業が評価されているように環境に対して国民の意識が非常に高い国と考えられます。そのため農業についても同様であり、環境に負荷を与えず、資源を循環させる、いわゆる環境保全型の農業を実践する農家が評価されています。
従って、バイエルン州でも環境に配慮した農業を州の目指す農業指針と定め、それを確実に実践する農業士の資格を有した農家には最大限の補助金を支給しています。補助金の支給額については、条件により様々でありますが、事業費としての上限は、約1億7,000万円で、その補助率は15~25%で2,550万円から4,250万円とのことでした。我が国では一戸の農家に、これほど多額な補助金の支給など考えられません。
しかし、このことを可能にした背景には、ドイツ国民、市民の環境への意識の高さや「クラインガルテン」(市民農園)による市民への農業への理解がその裏付けと考えます。
バイエルン州の農業局の聞き取りで直感したことは、農家への資金援助が補助金ではなく直接支払いあれば、もっと良いのではないかと思いました。
なぜなら、補助金は、その言葉のとおり農家に自己資金があることを前提にそれを補助するものであるからです。

我が国には、直接支払いによる「戸別所得補償制度」があり、すでに直接支払いが定着しています。
この直接支払いを、全農家を対象にしたものではなく、支給対象者を絞った直接支払いをすべきと考えます。
税金のバラマキと揶揄されないためにも、国民が納得する効果的な支給を図るべきです。
このことを実現するためには、ドイツの事例を参考にした日本版の仕組みを作る必要があります。我が国でも、バイエルン州の「農業士」と同様な資格を有する農家の育成を目指します。
その資格取得については、都道府県に必ず1校ある農業大学校を活用することです。農業大学校では、国の将来を目指すべき農業指針に基づき、都道府県の地域性を活かしたカリキュラムを作成して、2年間の実習教育を実施します。その後、資格試験を実施し、合格した農家を「農業マイスター」として認定します。
「農業マイスター」は、国からの直接支払いを受けることができ、着実な農業の担い手として育成されていきます。「農業マイスター」の更新ついては、現在実施されている「農業経営改善計画」(認定農業者)同様に5年をめどに実施します。
また、直接支払いの支給のチェックについては、年1回の実績報告書の提出と、併せた現地調査を行い、実際の経営状況の確認を行います。その際、実績報告書と現地調査の履行内容とに違いがあった場合は、直接支払いを中止するとともに、「農業マイスター」の資格は取り下げられます。
このように「農業マイスター」に対象を絞った直接支払いの実施をするには、まずは、農家や農業関係者の理解を得ることです。そして、なによりも国民の支持を受け、その実現を目指すものでなくてはならないと考えます。

そこで第一にすることは、市民の農業への参加、そして農業への理解を得る施策を実施することです。
ドイツでは、「クラインガルテン」により市民の農業への参加、そして農業への理解を得る仕環境を創りました。
我が国でも誰でもが農業参入できる(南足柄市農業参入システム)により、同様な環境づくりが整うものと考えます。
南足柄市の取り組みは、大阪府や鯖江市を始め、着実な広がりを見せています。しかし、自治体の主体性に委ねているだけでは、その広がりは緩やかなものであり、全国的な広がりを加速的ためには、この法制化を検討することが望ましいと考えます。
そして、農業を身近なものにすることにより、国民の農業や食料に対する関心が高まり、耕作放棄地の解消や食料自給率の向上が図られ、「農業マイスター」への直接支払いについても理解を得ることができる環境づくりが進むものと考えます。

我が国の農業を持続可能な産業にするためには、農家や農業関係だけで担っていける時代ではありません。
国民に開かれた農業参入できる仕組みを法制化(立法化)して始めて、その道が開かれるものと考えます。

専業的に農業をする農家や法人などの経営体には、対象を絞った直接支払い制度を実施する。その一方、国土全体の農地の維持保全の必要性からは、小規模でも農業に参入したいと望む農家以外の農業参入者を積極的に受け入れる施策を同時進行させるべきです。
その結果、ドイツのクラインガルデンの先進事例が示すように、国民全員で農業への理解や食料の大切さを共有する環境が構築できるものと考えます。
このように「農業マイスター」と「南足柄市農業参入システム」の併せた法制化の意義は大きく、我が国の農業そして、農家を救うことと固く信じています。
現在、この法制化に向けて、次世代の党の松田学氏とともに霞ヶ関と調整を図っているところです。


*グリーンベルトとは、「みどり」で形成された帯のことです。都市計画分野では、都市の保護政策の行う緑地帯で都心の人口密度の増加による市街地などの無秩序な拡大を阻止するために設置された森林帯や公園緑地などがあります。この考えは、イギリスのガーデンシティ構想から発したもので中心になる都市とそれを囲む衛星都市の間を繋ぐグリーンベルトと呼ばれる緑地帯のことです。